2021年J1リーグ第9節の試合後、鹿島アントラーズのザーゴ監督の解任が発表された。8試合で2勝2分4敗の勝点8の15位という成績だった。全20チーム中下位4チームが無条件にJ2に降格する今シーズンということを考えると、降格圏に足がかかっている順位での解任は成績だけみれば最もな決断ともいえるが、一方で直近2試合では1勝1分けとまずまずの成績を残しているし、連敗中には不運な失点も多かった。いち観戦者、視聴者としてみた観点で、上向きにも見えたチーム状況のなか解任の決断となった要因を探ってみたい。
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ポイント1:連敗中の主な敗因や失点シーン
#5 Away福岡戦(1-0)での和泉の負傷、関川のレッドカード
442を基調とする鹿島にとって重要なオプションのひとつだった和泉が前半29分で負傷退場。追い打ちとなったのは前半37分のDF関川の一発レッドでの退場。一人少ない状況で耐えていたが、福岡の金森に終了間際に決勝ゴールを許してしまう。
#6 Home名古屋戦(0-1)での犬飼のレッドカード
1点を追う82分にディフェンスの要の犬飼が2枚めのイエローで退場となり、残り10分ほどを残して厳しい状況に。なおかつ、犬飼は次節出場停止のおまけもついてしまう。
#7 Away浦和戦(2-1)でのVAR判定の結果浦和にPK
#5でのレッドカードの名誉挽回となる同点弾を関川が奪うも、PAの際どいところでのファールでPKを与えてしまう。VAR判定に持ち込まれた際どい場面だったが、判定覆らず。代表ウィークのブレークもあったが、結果には結びつかなかった。
このように、#5、#6に関しては退場者を出してしまう難しい展開であったし、#7に関しても昨シーズンまでならPKの判定はなかったかもしれない。とはいえ、3試合で1得点4失点では勝点を奪う可能性は感じられないのもまた事実。
ポイント2:連敗を止め、勝利を収めた#8柏戦
連敗の流れのなかで、久々の勝利を収めた柏戦。柏も降格圏に沈む調子の上がらないチームではあるが、監督としては結果を求められるなかで結果を出したかたち。ところが、引き分けとなった次節の試合後に解任を言い渡されてしまう。では、結果はともかく、内容に大きな問題があったのか?というところをみてみたい。
ビルドアップがうまくいかない
鹿島は、GKからショートパスをつないでのビルドアップを再三試みるが、4:40付近に1枚はがしてゴール前にいったシーンを除くと、ほぼ柏のディフェンスにひっかかってしまう。前線には高さ、強さにストロングのあるエヴェラウドがいるため、単純にそこにあてる形もありかと思うが、そういうプレーは選択しない。これが影響しているのかは不明だが、試合の序盤からエヴェラウドのフラストレーションの高いプレーが目立つ。
キープレーヤーによるショートカウンターで得点
鹿島先制のシーン。中盤でレオシルバばボールを奪取し、ファンアラーノへ。ファンアラーノが裏抜けする上田へスルーパスし、そのままシュートからゴール。鹿島のキープレーヤーによってショートカウンターが完成。
得点直後のミスからの失点
久々にリードを奪う展開も、プレスを受けたエヴェラウドが自陣で町田にパスをするが、ずれてしまい、そのまま柏にショートカウンターを完成されてしまう。レオシルバが激しいプレスでボール奪取したのと比べると、さほどプレッシャーがかからない場面での単純なミスによる失点は精神的にもこたえる。少なくともファン・サポーターにとっては残念なもののはず。
勝ち越し点を奪いたいが、ビルドアップがひっかかり、カウンターを受ける
再び得点が必要になった展開のなかでも、ショートパスによるビルドアップを継続し、これがことごとく引っかかる。柏としては鹿島のビルドアップ時に高い位置でボールを奪いカウンターをしかける狙いがあり、これが何度も成功し、シュートシーンを作り出す。鹿島GK沖のファインセーブと、柏の決定力不足に助けられたかたちで、1、2点入っていても不思議ではない展開。
この試合のポイント
この試合で気になったのは、「対策されていたビルドアップへの対策」が施されなかったところ。78分に4枚替えをするが、それ以前に投入された土居も含め、戦術的な目的はあまり感じられない印象。試合自体は終了間際にディフレクションしたシュートで勝ち越し点を奪うことに成功。勝利こそ収めたが、、、という感想を首脳陣も抱いたことは想像できる。鹿島の選手のプレーも、失点シーンに顕著なように、止める、蹴るという部分でのミスも目立った。
ポイント3:ビルドアップの形に変化をつけた#9札幌戦
前節兎にも角にも悪い流れを断ち切る結果を手にした鹿島。一つの勝利で大きくチームが変わることもあるため、重要な一戦となった本戦。結果的にはこの試合をもってザーゴ監督は解任されてしまうのだが、前節みられたビルドアップの問題については修正できた場面もあった。
引き続きビルドアップがうまくいかない
前節に引き続き、GKからショートパスで繋ぐスタイルの鹿島だが、サイドにおいやられ、アタッキングサードにもっていくことができない。
一方の札幌は、当初ロングフィードをアンデルソン・ロペスに収めようとするが、鹿島の町田がうまくそれに対処するとみるや、ショートパスを繋ぐスタイルに変更する柔軟性をみせていて、かたくなに同じビルドアップにこだわる鹿島とは対照的。手を変え品を変えながらほころびを探るスタイル、継続することで相手を疲弊させるスタイル、いずれがよいということではないが、鹿島はなぜエヴェラウドの強さ、高さを活かさないのか?という疑問が残る。
ロングカウンターに活路を見出す
自陣からファンアラーノが1人かわしつつ、前線へボールを運び、エヴェラウドへスルーパス、エヴェラウドのシュートはキーパーに阻まれるが、ビルドアップに活路が見いだせない中、ファンアラーノ経由で上田やエヴェラウドにスルーパスを出すカウンターが有効になることを予感させる。一方で、裏抜けからのスルーパスが活路になるなら、果たしてエヴェラウドがそういうタイプのストライカーなのか?というところは少し気になるところ。
前半終了間際にビルドアップを変更
40分すぎの自陣ゴール前でのFKから、初めてロングフィードをエヴェラウドにあてる形をみせる。結果的にこの流れでアタッキングサードへ入り込むことに成功。
集中力を欠くプレーが散見される
42分三竿の自陣ゴール前での不用意なクリアがそのまま相手FWのアンデルソン・ロペスに渡り、そのままシュートを打たれる場面にはじまり、50分すぎにも、ボールを傍観してしまうシーン。直後の51分にもスローインで受けたボールをそのまま外に蹴り出してしまうなど、少なくとも画面に映る範囲において三竿の集中力を欠くようなプレーが散見された。このあたり、試合中にベンチから激を飛ばすにしても限度があるため、いわゆるピッチ上の監督のような存在が必要なのだろう思う。
サイドチェンジに手を焼く
札幌は菅、福森といった自陣左サイドからの精度の高い対角線のロングフィードからチャンスシーンを再三作り出す。札幌金子と鹿島永戸のマッチアップは、金子が左足からのクロスを何度か上げることに成功する。
試合後の監督インタビューで語っていたとおり、三竿を下げ、5バックでこのサイドチェンジに対応しようとしたザート監督。しかし、この対応をする前にまたしてもVARによる際どい判定でPKからの失点を喫してしまう。
同点のシーンながら、ジェイを投入し、前掛かりの布陣をしける札幌にたいして、ディフェンス枚数を増やす選択をし、受けに回ってしまった鹿島という布陣。
この試合のポイント
結果としては引き分けというかたちだが、ホームということもあり、札幌のペトロビッチ監督が先手先手で対応するのに対し、2点先制し、試合の主導権は握れるはずのザーゴ監督が後手に回ってしまう印象をうけてしまう。
考察
結果だけ見れば、1勝1分けで上向いているようにも見える流れだが、先制しつつ追いつかれる展開だけでなく、相手に合わせた試合中の戦術変更の柔軟性の低さが解任の決め手になったのではないかと思います。練習中の雰囲気など、見えない部分に決め手があった可能性も十分ありますが、ピッチ上で「うまくいってない」と感じながら選手がプレーし続けることで、集中力を欠くようなプレーも併発してしまう悪循環におちいってしまったのかもしれない。昨シーズン後半の試合内容は良かった印象だし、待望のピトゥカ合流後の試合もみてみたかったところだが、逆に合流のタイミングで一旦リセットして再スタートするという意味もあったのかもしれない。育成と結果の両方を求められる、若手中心の選手構成で臨む今シーズンの鹿島アントラーズの今後の試合に注目してみたい。