東京オリンピック本大会に向け、オーバーエイジ枠3人を加えた形での(実質的には)はじめての実戦となったU24日本代表対U24ガーナ代表の試合ですが、オーバーエイジ枠選手個々の能力が際立っていたのはもちろんのこと、オーバーエイジ選手のプレー選択がチーム全体の連動をスムーズにしているようでした。結果的には日本の大勝となった、この一戦を、選手交代の思惑などを推測しつつレビュー。
Lineup
日本は4231の形で、ガーナは前線の形がちょっとあいまいですが、442の形をベースとしているようでした。日本代表は、今季プレミアリーグを制したマンチェスター・ユナイテッドを彷彿とさせるライトブルーの100周年記念ユニフォームを着用しています。正直、テレビ越しだと色合い的に背番号が見づらいのですが、それでも迷彩柄のユニフォームより格段に視認性は高いですし、襟付きのユニフォームは素直にかっこいいと思いました。機能性としては襟がないほうがよいのでしょうけど、1999年当時のワクワク感も蘇ってくるようです。
前半
日本ボール保持時
右サイドバックのオーバーラップを活かした攻撃の組み立て
日本は、右サイドバックの酒井がかなり積極的にオーバーラップを仕掛けます。3月の代表戦での右サイドバックだった、菅原、原と大きく印象が異なる部分でした。どちらかというと、チーム戦術として決めているわけではなく、選手個々の判断にゆだねている部分がおおいチーム森保という印象なので、3月の代表戦でもどかしいと感じていた部分が解消されていると感じました。
右サイドハーフの堂安が内に絞って酒井のコースを開けたり、逆に中央の久保が右サイドによって酒井とのコンビネーションを図ったりと、いい感じの連動もできているようです。
遠藤、田中を経由した組み立て
右サイドバックのオーバーラップだけではなく、最後列からのビルドアップにおいては、センターハーフの遠藤、田中を経由して効果的な組み立てができていました。下記の場面に象徴されるように、例えば、吉田→遠藤→堂安といった具合に、パスを繋ぎますが、堂安に出る場面で、サイドに張っていた久保が相手の左サイドバックを引出し、堂安の前方にスペースを空けるという連動をみせていました。もともと、このチームでは田中がゲームメイクのキーになっていましたが、遠藤が加わることで、パスの出どころが2つになるため、対戦相手も的を絞りづらくなるように感じます。
ネガティブトランジッションの意識
ネガティブトランジッションの意識も高くなっていると感じました。先程の25分のシーン、最終的には酒井も攻撃に加わりクロスをゴール前に入れますが、ガーナのディフェンスにボールを奪われてしまいます(3アルハサンがボール保持)。しかし、その直後、上田、相馬、堂安が猛然とボール保持者にプレスをかけ、たまらずガーナのボール保持者は自陣深いところにおいやられ、ファジーなクリアをするのみとなりました。
いわゆる、クロップ監督の代名詞でもあるゲーゲンプレスということになりますが、ここは、数人のプレーに一貫性がみられたので、チームとしての決め事として取り組んでいる部分ではないかと推測しています。
ガーナボール保持時
日本がディフェンスに回った局面もみていきます。カメラの画角もあり、日本の最終盤の様子は想像ですが、基本的には高い位置から、守備を開始しています。遠藤、田中というセンターハーフの二人がハーフウェイラインを超えたところで相手の中盤の選手にタイトにマークにつくかたちです。
前半まとめ
オーバーエイジ枠の選手とはあまり合わせていない中でも、久保や堂安はA代表でもプレーしている経験からか、特に問題ない、というより効果的な連携をみせていた印象です。
一方のガーナは、前半の失点シーン以降、個人技に頼るシーンが増え、1枚はがしかけるまではいきますが、日本の組織を崩すには至らず、結果的に一層日本ペースとなるような展開となっています。最終ラインもあまり統率がとれていなく、チームとしての完成度は低い印象でした。どうやら来日メンバーはベストメンバーではなかったようです。
なお、副音声で、前園さん、那須さんが解説をしていました。声のトーンこそ落ち着いていますが、トークの内容が熱いため、つい引き込まれてしまいました。何ならゴールシーンでも特段盛り上がらないのですが、それも、彼らが、この試合の位置づけを正しく理解してるからこそ、という印象をうけました。是非、他の試合でも聞いてみたい解説でした。
後半
後半も両チーム共に選手交代なし。そもそもGK含め交代選手が7人しかいないガーナは分かるとして、12人の控えメンバーを揃える日本が選手交代しなかったのは意外でした。前半に3 – 0と、流れを考えてもほぼ試合としては決まってしまった流れなので、モチベーションが下がる相手に対して、オーバーエイジを外しての試合を進めるという選択肢でもよかったのではないかと、個人的には思いました。
最終ラインからの縦パス
オーバーエイジの吉田と、(実質的にはオーバーエイジ枠的な)富安というCBコンビが新たに加わったことになりますが、守備面の安定はもちろんですが、特に印象的だったのが、彼らからの縦に付けるパスです。3月のアルゼンチン戦では、個人的に以下を課題と感じていました。
- サイドバックがオーバーラップしない、したとしても、タイイミングが遅い
- CBがサイドバックに横パス、あるいは、落ちてきたボランチに渡す
これらによって、結果的にボールキープ率こそ高くなりますが、攻撃のスイッチを入れる機会が少なかった印象ですが、吉田、富安からは田中、遠藤を飛び越し、前線の選手につけるパスを出せていました。これにより、スムーズに前線にボールを運ぶことができ、相乗効果として、サイドバックもオーバーラップがしやすくなっているように感じました。
58分 日本選手交代 三苫、板倉
日本最初の選手交代は58分。センターバックと左サイドハーフ。富安はコンディションを考慮しての交代と思われますが、三苫はこのチームの重要なオプションとしての投入ということでしょう。
67分 日本選手交代 前田、食野
更に10分後にセンターフォワードと右サイドハーフを交代。前田は3月のアルゼンチン戦時には怪我だったこともあり、しばらくぶりの形。食野は三好との当確争いの中でのテストということでしょうか。
なお、ここまで、途中投入された三苫が前を向いてボールを持つシーンは1度位しかみられていません。先発出場させていないことから、このチームにおける三苫の役割は、「どうしても点が欲しいときの切り札」ということが考えられます。大量リードの本試合の展開だとそのテストとしては難しいのかもしれませんが、ある程度守備は放棄し、相手のサイドバックを大外にピン留めするような位置取りをして、確実にボールを受け、そこからドリブルを仕掛けるような形でもよかったように思えます。守備の意識があるのか、少し密集地帯に位置どることも多く、あまり効果的なパスを受けることができていなかったように感じます。おそらく、ここも個人の判断だと思いますが、特別な役割を担う選手を使う場合は、チームとして決め事を作ったほうがよいとは思います。
78分 日本選手交代 旗手
久保に代えて、旗手投入。3月のアルゼンチン戦では左サイドバックで出場していたため、前目のポジションでの動きを念の為見てみたいということでしょう。
84分 日本選手交代 古賀
最後の交代は左サイドバック。万が一のけが人が出た場合などを想定してのことだとは思いますが、残り5分での投入の意図は測りかねてしまいます。守備固めということでしょうか?はためには、三苫がうまくフィットできていないようにも見えたので、旗手を左サイドバックに回し、クラブチームでのコンビネーションを活かす、という修正でもよかったのではないかと思います。
まとめ
OA枠の3人+富安の4人を加えたU24日本代表チームは、彼らの個々の能力の高さからくる守備の安定度だけではく、「困ったときの田中碧」というチームカラーを払拭できたのではないかと感じました。どうやら田中本人もなにかのインタビューで答えていたようですが、遠藤とのコンビによって、諸々の負担が減ったことにより、より自由にプレーできるようになったようです。ボールの出どころも、田中に加え、遠藤、更には最終ラインから、と増え、更には今まで物足りなかったサイドバックのオーバーラップも増え、攻撃の幅が広がったように感じます。オーバーエイジ枠として大迫を呼ぶという声も多くあったようですが、決定力よりゲームの組み立てを課題と感じていましたので、個人的にはこの3人の追加はかなりよいと感じました。
一方で、途中投入された選手については、以下に挙げるようなポイントが見られなかったので少し残念に思いました。大差が付き、日程もタイトななかという悪条件ではありますが、であれば、次回は先発や後半頭からの投入というところも見てみたいなと思いました。
- 三苫のドリブル
- 板倉の縦パス
- 食野の仕掛け
- 前田の裏抜け