代表ウィーク明けの第7節。名古屋はここまでの6試合での失点がオウンゴールによるわずか1失点と、イタリア出身のマッシモ・フィッカデンティ監督の目指すサッカーが具現化されてきているといいえる。堅守の名古屋に対して、3試合連続ゴール中のディエゴ・オリヴェイラを中心としたFC東京の攻撃陣が得点を奪えるかが注目された1戦はスコアレスドローという結果に。両チームの守備の特徴を中心に振り返る。
Starting Lineup
名古屋4231に対して、FC東京が4123とボランチの枚数が違うのみの基本フォーメーションの予想。
前半
序盤の攻防
名古屋、FC東京共に似たような守備システム。攻撃が完了(失敗)した際のネガティブトランジションが早く、ボールを奪われた瞬間からボールホルダーに対してプレスをかける。結果的にボールを再奪取することも多く、いずれかのチームが連続して攻撃する流れの前半の序盤。
名古屋のネガティブトランジションの早さ
13分のシーン、NGY25前田が16マテウスとのワンツーで突破を試みるも、TOK10東にカットされる。TOKは一旦6小川にバックパスし前線への展開を図るが、NGY16マテウスがボールにプレスをかけ、縦の位置でボールを貰いに来たTOK15アダイウトンには、NGY15稲垣がしっかりマーク、NGY25前田は横パスを出させないようにパスコースをきる位置取り。結果的にTOK6小川は出しどころがなく、ファジーに前線にロングボール蹴った結果、相手ボールのスローインに。名古屋のネガティブトランジションの切り替えの早さを象徴するシーンのひとつ。
名古屋のオフェンスシステム、FC東京のディフェンスシステム
NGYは2CBとボランチの1枚がトライアングルの形を作るところからビルドアップを開始し、サイドバックを積極的にオーバーラップさせるかたち。17分のこのシーンでは、中盤が右から、ボランチの稲垣、米本、左サイドバックの吉田、というかたちで右サイドバックを高い位置に配置する意図を感じる。同様のシーンが幾度か見られたため、TOKの15アダイウトンを押し込む形とし、仮にカウンターを受けたとしてもアダイウトンの攻撃力は活かしきれないかたちを狙ってのシステムということが想像される。
一方のTOKは相手がボールをキープできている場面では、あまり深追いしない。相手のビルドアップの起点の2CB+1ボランチに対してはCFのオリヴェイラが1人で簡単にケアするのみで、むしろ背後やサイドのスペースを重点的にケアしている。
FC東京のオフェンスシステム、名古屋のディフェンスシステム
TOKのオフェンスは前線へロングボールを蹴り、そのこぼれ球を拾ったり、相手へプレスをかけてボール奪取する形でスタートする。NGYは相手陣深いところでのフォアチェクとは裏腹に、自陣ではしっかり引いて陣形を組む。35分すぎのこのシーンでは、かたちとしては4231の守備陣形としてはよくある442だが、2トップの柿谷、シャビエル共に1.5列目くらいの低い位置なので460という言い方でもよいかもしれない。
前半まとめ
両チームともに守備への意識の高さが感じられる前半。その意識もあってか、自陣からのビルドアップがシュートシーンまでいくことはなく、両チームとも、相手陣深いところでプレスをかけてショートカウンターを狙う展開となった。
名古屋は、右サイドバックを高い位置に配置し、右サイドハーフの前田とともに仕掛ける形を突破口にしている。
FC東京は前線に高さ、強さのある選手を揃えていることから、ロングフィードを蹴りこんだところからのこぼれ球、あるいはプレスをかけてのショートカウンターとう狙い。
一言でいえば「ショートカウンター狙い」の両チームではあるが、そのきっかけづくりには違う特徴が出ている点が興味深い。
後半
後半の入りは両チームとも前半の流れを継続。FC東京はロングフィードを前線に送り込み、名古屋はドリブラーの前田、マテウスとそれぞれのサイドのサイドバックが絡み合って攻撃を仕掛ていく展開。
名古屋、攻撃へのテコ入れ(相馬、斎藤) 57分
後半に入り、若干膠着状況となるなか、名古屋が先にカードを切る。前半から前線での激しいプレスで運動量を要求されていた、前田、シャビエルに替えて、相馬、斎藤を投入。ふたりとも、いわゆるドリブラータイプで、なおかつ日本代表経験を持つ実力者。実際、投入後継続して運動量豊富なマテウスと共に、チャンスを演出。
FC東京、攻撃へのテコ入れ(永井、安倍) 63分
名古屋の交代の約5分後、東京もカードを切る。前線へのハイボール一辺倒の攻撃が実を結ばない展開が続くなか、スピードスターの永井を投入。永井の投入で、裏抜けの動きが増えるかと思いきや、むしろ永井はボールを受けに落ちてくる動き。どちらかというと、攻撃の形に変化をつけるというより、少しインテンシティの落ちてきた最前線のプレスにテコ入れした印象。安倍の投入で、東を高い位置でプレーさせたい意図があるのかと思わせる動きを東がするが、中央を固める名古屋のプレスを嫌い安倍の位置まで落ちてしまい、サイドに展開する形に。東が相手ボランチの間で受けて前を向ければチャンスになるのだろうが、流石にスペースがなく、プレスがきつそう。
名古屋、前線に高さのある山崎投入。FC東京は前線のプレス人数を増加
FC東京はディフェンス時に、相手2CBに対して2枚、相手2ボランチに対して1枚というかたちでプレスの人数を増やす。79分のこのシーンではオリヴェイラ、アダイウトン、永井という3枚でうまくハメたように見えたが、名古屋の稲垣が上手くプレスをかいくぐり、そのまま前線にボールを運ぶことに成功する。シュート力だけでなく、繋ぎの部分でもボランチとして秀でているパフォーマンスを見せる。
フィッティがンディの、試合を終わらせるメッセージ
名古屋が攻撃の中心を担っていたマテウスに替えて、長澤を投入。これにより、中央が3ボランチの形になる。監督から「この試合は絶対に無失点でいく」というメッセージが伝わってくるかのよう。もちろん、豪華なベンチメンバーだからこそ込められるメッセージではあるけれど。
まとめ
今シーズンの名古屋は数字から、ガチガチに引いて守備を固めるチーム、という印象だったが、両サイドに配置されたドリブラーの仕掛けをきっかけとした、前線からのハイプレスはとても見応えがあったし、得点数の多いFC東京に比べ、”攻撃的”と表現すべき試合だったと思う。名古屋の失点数の少なさは、以下のポイントに集約されているような気がする。
- ドリブルで攻撃しかける
- あわよくば、シュート、ゴールまで。
- ボールロストしても、相手が100%ボール保持できていないため、高い位置から素早くプレスにいき、ショートカウンターを狙う
- 結果的に、相手陣内で試合を進めることができ、ロングカウンターにさえ注意していれば失点リスクは少ない
ポイントは、1点目の「ドリブル攻撃を仕掛ける」選手の存在。マテウス、前田、相馬、斎藤といったあたりはリーグでも屈指のドリブラー。交代枠も活用しながら、90分間この1点目を継続できることが、結果として失点の少なさにつながっている、というのが名古屋の失点数の少なさの秘密なのではないかと思う。
FC東京に関しては、決定機がなかったわけではないが、前線へのハイボール中心の攻撃に終始し単調となったことに加え、”仕掛け”る局面が少なかった印象。逆にいうと、名古屋のディフェンス組織に空きがなかったとも言える。前半の右サイドバック中村穂高の負傷交代により、プランが崩れてしまった可能性もありそう。
ACLの日程変更に伴い、4月29日、5月4日とまさかの連戦となった首位フロンターレとの直接対決は、まさに「最強の矛VS最強の盾」といえる一戦といえそうで、今から楽しみ。
参考リソース
https://www.jleague.jp/match/j1/2021/040304/live#live
https://www.jleague.jp/en/match/j1/2021/040304/live#live