ザーゴ監督から相馬監督に交代した鹿島アントラーズ。チームとしての問題点がいくつか見えていたとしても、シーズン途中の監督交代(方針転換)は優先度をつけて1つずつ行う必要があるはず。徳島相手に初陣を飾った鹿島アントラーズだが、試合を通じて「ネガティブトランジション」における守備の意識を強く持ってこの試合に入ったのではないかと思う。そのあたり、直前の札幌戦との比較で振り返りたい。
現状の鹿島アントラーズの問題・課題
客観的にみると、現状の鹿島アントラーズには以下の問題や課題があるように思える。それぞれ簡単に振り返りたい。
- ビルドアップのかたち
- 得点力
- 選手のストロングを活かしきれていないシステム
ビルドアップのかたち
ザーゴ監督の元では、ゴールキーパーからのビルドアップは、ショートパスを繋ぎ前線にボールを運ぶスタイルを徹底していた。ところが、多くの場合で相手のプレスにつかまってしまい、カウンターを受ける場面が目立っていた。
得点力
第10節を終えた時点で、(この試合での1得点を含め)11得点はJ1で12位。失点も12失点と10位。上田、エヴェラウドという強力FW陣を擁するチームとしてはやはり物足りないところ。得点に関しては、1位の川崎フロンターレが30得点とずば抜けているが、得点力上位7チームが15得点以上しているところからも、優勝を狙うチームとしてはここにもテコ入れが必要そうではある。
選手のストロングを活かしきれていないシステム
前述の得点力にも関連して、鹿島のなかでエヴェラウドというリーグ屈指のクオリティの強さ、高さ、決定力を誇るFWがいまだ2得点。昨シーズン終盤戦では、前線のエヴェラウドを攻撃の起点とするかたちでエヴェラウドを活かしていたようにみえていたが、今シーズンはスペースへのランニングを主体とするスタイルになり、この個性を活かしきれていないように思える。
「まずは守備から」という意識付け
公式リリースはされていないが、何らかの理由でエヴェラウド、ファンアラーノがベンチ外となった本戦。新監督が意識付けしたのは、「守備の意識」という点ではないかと推測する。ボールロスト時(相手ゴールキックになったり、キーパーに保持された時を除く)に攻撃→守備への切り替えが早く、強いプレス強度でボール奪取からのカウンターを狙うかたちが目立った本戦。前節の札幌戦との比較で検証してみたい。
いずれの試合も、試合が落ち着き出した前半15分〜前半40分あたりの、事前に準備していたかたちが見えやすい時間帯で比較している。
ネガティブトランジションにおける切替えの早さ
札幌戦
#09の札幌戦では、この時間帯に3回のネガティブトランジションのシーンがあった。3回中1回で即プレスに行く対応をみせた。
時間 | ボールロストエリア | 1stディフェンスの対応 |
---|---|---|
17:39 | センターライン付近 | 土居、レオシルバはプレスにいかず、リトリートして構える対応 |
27:49 | アタッキングサード | ファンアラーノが素早いネガティブトランジションから相手のパスをブロック |
33:33 | センターライン付近 | 上田はプレスにいかず、パスコースをケアする |
徳島戦
#10である本戦では、この時間帯に6回のネガティブトランジションのシーンがあった。29:25のシーンは少し微妙ではあるが、ほぼすべてのシーンでプレスに行く構えをみせた。特に30:00のシーンはこの後の2次攻撃で得たコーナーキックから先制点を奪っているため、この守備がくしくも得点力不足の解消にも一役買ったことになる。
時間 | ボールロストエリア | 1stディフェンスの対応 |
---|---|---|
18:12 | センターライン付近 | 荒木が即プレスに行く |
19:02 | アタッキングサード | 三竿が即プレスに行く |
26:00 | アタッキングサード | ボールロストした荒木がそのままGKにバックパスされたボールにプレスをかける |
27:05 | アタッキングサード | ロスト後相手がクリアしたボールにオーバーラップ気味に町田がプレス |
29:25 | コーナー付近 | 土居、永戸はリトリートの対応も、三竿が遅れてプレスにいく |
30:00 | PA付近 | 上田のシュートのこぼれ球にレオシルバ、常本がプレス |
札幌戦では、見直してみると鹿島は攻撃がシュートシーンやサイドラインを割るなど、試合が「切れる」かたちで完結することが多く、徳島戦ではむしろ相手に「奪われる」かたちが多かったことが、このネガティブトランジションの回数からも見えてくる。札幌も徳島も異なるスタイルのチームなので一概にいえないが、それでもネガティブトランジション時の切替えについては、この数日間で徹底的に練習してきたことをうかがわせる。
ポゼッションする徳島に対してサイドに追いやる守備
相手がボールを保持した際の守備については、前節と大きく変わらない。中央を固めつつ、ボールがサイドに出たところでMF中心に囲む形。札幌は前線の選手と後方の選手が入れ替わることでこのプレスを突破する工夫があったが、徳島はこのプレスに手を焼くことになった。
相手ビルドアップに対するハイプレス
前半から徳島はGK+3枚の最終ラインでボールを回しながら空きをみつけ前線にボールを運ぶスタイルをみせていた。後半開始早々のこの場面では、ボランチのレオシルバが2トップと共に相手の3枚の最終ラインにマン・ツー・マンでつく形をみせる。こういったアグレッシブなハイプレスはザーゴ監督時代にはみられなかった。
勝負の分かれ目
ポゼッションを重視する徳島は、ディフェンス時にはしっかり引いて守る鹿島の守備陣系をなかなか崩せない。60分のこのシーンなど、ロングフィードもうまく使いながら前線に起点をつくるも、裏抜けする浜下を使うことなく、ボールロストのリスクの少ないバックパスを選択している。このあたりのリスクマネジメントも、やっと来日が叶ったダニエル ポヤトス監督にとっては修正ポイントの1つになってくるのではと思う。
まとめ
鹿島アントラーズ目線でいうと、前節からの変化点は以下。特に、前節精彩を欠いたように写っていたキャプテン三竿のパフォーマンスが向上しているのは好材料になるはず。
- エヴェラウド、ファンアラーノの不在
- 前線からのハイプレス
- 三竿のパフォーマンス向上
スピードより強さ、上手さに長けるエヴェラウド不在ゆえに、インテンシティの高い守備ができる白崎、荒木を前線に配置できたとも言えるし、ハイプレスからのカウンターという戦術が「構えて守る」というより「ボールを奪いに行く」ことに長けた三竿のパフォーマンスが向上したとも言える。
一方で、前節対戦した札幌に比べると、徳島は前線のキーマンである垣田不在もあり、鹿島のプレスをかわす工夫があまりなかった。いくつか対角線のサイドトゥサイドの大きなサイドチェンジが効果あったが、札幌ほど継続することがなかった点は鹿島としてはやりやすかったように思う。
ザーゴ監督に比べると、ボール奪取する位置が高いところに設定されていて、今日はそれが好循環を生んだ結果。早速3日後に札幌とのルヴァンカップの試合があり、同じチームに対して監督の違いがサッカーの内容がどのように変わるのかは大変興味深い。